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・・・長崎に投下された原爆により破壊された浦上天主堂には、1930年代イタリア製の木製マリア像が置かれていた。
のちに瓦礫の下から掘り出されたマリア像は、焼け焦げ、破壊され、ガラス製の眼球も失っていた。その姿はあたかも、長崎で死んでいった幾多の死者たちの運命を永久に人の記憶にとどめさせようとするかのようである。
- 作者: 田口ランディ
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2006/05
- メディア: 単行本
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・・・小説は長崎の原爆被害とはあまり関係がない。
あるいは深いところでつながりを持っているとも言える。
罪なくして傷つけられ、
罪なくして命を奪われていく、
そのような人々の
ありふれた悲劇についての物語。
それは次のように読むこともできるだろう。
遠く離れているように見えて、実は同じことが、
かつて長崎で起こり、今もなお起こっているのだと。
過去との回路をひらく試みとして、
これを見ることもできるのではないか。