JR西日本への意見書(2022年11月にJR大阪駅で掲示されたYostar社の駅広告について)
西日本旅客鉄道株式会社 御中
JR大阪駅の御堂筋口前通路において、2022年11月27日まで掲示されていたYostar社の広告(※)に関連して、御社に意見書を提出します。この意見書には、御社およびJR西日本グループ傘下企業に対する批判・苦情・改善提案が含まれています。
※同社のスマホゲーム『雀魂』のポスター群で、アニメ『咲-Saki-全国編』とのコラボ企画を告知するもの。
この意見書の執筆者である私は、仕事や生活でJR西日本の交通機関を利用している既婚男性です。アニメ・マンガ・ゲーム・映画・小説・歴史・政治・戦記などのオタクでもあります。
なお、この意見書には「性的な表現」「犯罪」「暴力」「暴言」「飲酒」に関する記述が含まれます。それらが苦手な方のために、まずは概要のみをお伝えします。
【意見書の概要】
御社に以下の意見を提出します。
「JR西日本グループ人権基本方針」、およびSDGsの一つである「ジェンダー平等の実現」等にもとづき、
①御社の駅関連施設に掲示される広告に、「未成年の飲酒に類した表現」が含まれないようにすること。
②また、「風営法違反に類した表現」が含まれないようにすること。
③さらに、「女性や未成年を性的対象化する表現」が含まれないようにすること。
④御社の広告基準を再検討のうえ改訂し、基準の運用方法も改善すること。また、広告に対する苦情への対応を改善すること。
改訂された広告基準には、「女性や未成年を性的対象化する表現は避ける」「ジェンダーバイアスの強化に荷担しない」という明文規定を追加すること。広告掲載の可否の判断に、社外からの意見、利用者からの批判意見も反映すること。
⑤「広告に関する批判・批評は表現の自由であり、消費者の権利である。批判意見を提出した人々への侮辱や人権侵害は許されない」旨、公式に声明を出すこと。
概要は以上です。ここからは本文となります。
【意見書の本文】
①「未成年の飲酒に類した表現」の問題
2022年11月27日、私はJR大阪駅で前述のポスター群を拝見しました。私はオタクですので、近年の企業や団体の広告・広報において、性的強調が強いイラスト広告、人権上の問題がある文言などが批判された多数の事例を知っています。それらの事例と比較してみても、今回のポスター群はより多くの問題点を含んでいると感じました。
まず第一に、未成年のキャラクターによる飲酒の描写があることです。
当該ポスター群に描かれたキャラクターは、アニメ『咲-Saki- 全国編』の登場人物であり、未成年であるという設定です。
アニメ『咲-Saki- 全国編』公式サイト.
http://www.saki-anime.com/character/:title=http://www.saki-anime.com/character/
ところで現在、日本の酒類業界では、未成年による飲酒や飲酒運転などの違法行為を防ぐため、酒類の広告に関する厳しい自主規制を行っています。
酒類の広告審査委員会「酒類の広告・宣伝に関する自主基準」では、20歳未満の者の飲酒を誘因する広告を行わないこと、20歳未満の広告モデルを使わないこと(TV広告では25歳未満)などのほかに、公共広告機関での広告を行わないことが明記されています。
酒類の広告審査委員会. 「酒類の広告・宣伝に関する自主基準」. 2019.7.1.
http://www.rcaa.jp/standard/:title=http://www.rcaa.jp/standard/
また2016年には、キリンの缶チューハイ『氷結』のネット配信アニメCMが、視聴者からの意見を受けて中止された事例もありました。ゲーム・アニメ・SNS・声優アイドルなどの若者文化を飲酒シーンに関連付けていること、登場人物が25歳未満の設定であることなどが、アルコール薬物問題全国市民協会(アスク)から批判されたためです。
「酒類CMの自主規制 『アニメ』『25歳以下』『ゴクゴク』はNG. 週刊ポスト. 2017.4.23.
https://www.news-postseven.com/archives/20170423_513990.htmlアスク(アルコール薬物問題全国市民協会). フェイスブック. 2016
https://pt-br.facebook.com/npoask/posts/1565576337071831/
このような強い自主規制が存在するのは、酒類業界の皆さんが、「酒類が致酔性飲料であること」を認識し、それを商品として扱う社会的責任を自覚しているからです。酒類とは、端的に言えば「安全な状況下で、適量を自主的に服用することが認められている危険物」ですから、広告や広報にも若年層への十分な配慮と自制が求められるのは当然のことです。キリンが『氷結』のアニメCMを配信停止にしたのも、「アニメCMだから問題ない」とは考えず、「アニメを用いたCMだからこそ、若年層に対する酒類への強い誘引になりうる」と認識を改めたからでしょう。こうした業界の努力や配慮に対して、私は敬意を払いたいと思います。
ところで、JR大阪駅の当該ポスター群においては、そうした配慮や自制は行われていたのでしょうか。
もしかしたら御社は、このように弁明されるかもしれません。「あのポスターは未成年の飲酒を描写していない。酒瓶のように見えるボトルには、『〇〇ジュース』という文字が書かれているのだ」と。
しかし、それは苦しい言い訳です。果物のジュース類は、カクテルドリンクの「割り材」として酒類販売業界で使用されています。「バーカウンターに『〇〇ジュース』と書かれたボトルが描いてある」だけでは、飲酒シーンではないとは言い切れないのです。また、当該ポスターの多数のイラストの中には、「『〇〇ジュース』のボトルが描かれていないイラスト」も存在します。そこには「飲料入りのカクテルグラスを持ち、バニーガール姿でカウンターテーブル前に座る未成年キャラクター」が描かれています。これを「飲酒の描写でない」と主張するのは、少々無理があるのではないかと思われます。
また、こちらのイラストもご覧ください。イラストに描かれた未成年少女の足元には、球形をしたガラスボトルが見えます。全く同じだとは言いませんが、このボトルは英国FIREBOX社の「CRYSTAL BALL SHIMMER GIN」という製品によく似ています。チェリーやハイビスカスのフレーバーが楽しめる、度数37.5%のジンです。重箱の隅をつつくようなことを言って申し訳ありませんが、いささか「脇が甘い」のではないでしょうか。
FIREBOX. Crystal Ball Gin.
https://firebox.com/crystal-ball-gin
ここでまず考えるべきは、御社のような大企業が、「未成年の飲酒シーン」のように見えてしまうポスター群を、公共の場に掲示することの意味です。それは社会にどのようなメッセージを伝えることになるのでしょうか。酒類業界のみなさんが懸命に回避してきた、「若年層に対する酒類への誘引」になりはしませんか。
なお、御社の関連会社である株式会社JR西日本コミュニケーションズの『2021年度 JR西日本交通広告メディアガイド』によれば、広告として避けるべき表現の一つとして、次の文言があります。「各業界が定めている公正競争規約や、自主規制に反するもの」と。当該ポスター群には、御社の内部基準に照らしても適切とは言いがたい表現が含まれていると思われます。
株式会社JR西日本コミュニケーションズ.『2022年度JR西日本交通広告メディアガイド 2022年度JR西日本交通広告データブック』. 2022.
https://www.jcomm.co.jp/assets/pdf/transit/price/media_guide/mg_all_20220401.pdf
今後、御社の関連施設に掲示される広告には、「未成年の飲酒に類した表現」が含まれないようにすることを求めます。
②「風営法違反」に類した表現の問題
第二の問題点は、御社の当該ポスター群に「未成年者のナイトクラブ勤務」に見える表現が見られることです。
ポスターの中の複数のキャラクターは、バニーガールスーツを着用しており、カウンターテーブルなどの酒席を連想させる背景も描かれています。
ここで、「バニーガールスーツとはどういう意味を持つ衣装であるか」を確認しておきましょう。バニーガールスーツ(バニースーツ)は1960年、ナイトクラブ『プレイボーイクラブ』のウェイトレスの制服として誕生しました。このナイトクラブの経営者は、アメリカの男性向け雑誌『プレイボーイ』の創設者であるヒュー・ヘフナーです。
バニーガールスーツは、雑誌『プレイボーイ』のシンボルロゴである黒いウサギ(プレイボーイバニー)のイメージをなぞったもので、肩や背中や足を大きく露出するストラップレスのテディ(コルセットつきボディスーツ)、ウサギの耳型のヘッドバンド、ウサギの尻尾型のコットンテールなどで構成されています。
さて、ヒュー・ヘフナーが1967年1月10日付『LOOK Magazine』のインタビューで語ったところによると、彼はウサギのロゴに性的な意味合いがあることを認識していました。また彼は、愛玩動物としてのウサギのイメージを、自分の理想とする女性のイメージと重ねていることを明言しました。
Oriana Fallaci, "Hugh Hefner: 'I am in the center of the world'", LOOK Magazine, 1967.1.10.
これらの史実から明らかなことは、バニーガールスーツが本来はナイトクラブの制服であり、女性を性的対象化する意味合いを持つコスチュームである、ということです。
では、「バニーガールスーツを来た未成年のイラスト広告」は、社会に対するどのようなメッセージとして機能するのでしょうか。
ここで、近年の大阪で発生した、次のような事件を思い出してみましょう。
「女子高生死亡でガールズバー経営者を逮捕」. 産経新聞. 2012.2.14.
https://web.archive.org/web/20120214185031/https://sankei.jp.msn.com/west/west_affairs/news/120214/waf12021412150014-n1.htm「ガールズバー、違法店続出 大阪府警が初の集中摘発」, 日本経済新聞, 2012.3.15.
https://www.nikkei.com/article/DGXNASHC1402Y_U2A310C1AC8000/「スタッフも店長も全員未成年…大阪市のガールズバーを摘発」. 産経新聞. 2016.11.16.
https://web.archive.org/web/20161116170019/https://news.livedoor.com/article/detail/12291520/「大阪のガールズバーで未成年働かせる 半グレグループのリーダー格を逮捕」, 産経新聞, 2020.1.21.
https://www.sankei.com/article/20200121-JHNCX4L2F5JX3EGNGECV5MUI2M/「神戸三宮のガールズバーで違法営業の疑い 20代男女4人を逮捕」. サンテレビNEWS. 2022.8.18.
https://sun-tv.co.jp/suntvnews/news/2022/08/18/56653/
これらの事件の共通点は、風営法や労働基準法などの各種法令に違反して、未成年にガールズバーなどで酒席の接待をさせていたという点にあります。極めて危険な人権侵害であり、現に未成年の飲酒の習慣化や、急性アルコール中毒による死亡事故なども発生しています。
このような現状を前にして、JR大阪駅の改札口の正面に「未成年のナイトクラブ勤務を描いているように見える広告」が掲示される。そのことの持つ意味を、よく考えていただきたいと思います。
なお、先述の『2022年度JR西日本交通広告メディアガイド 2022年度JR西日本交通広告データブック』によれば、御社の広審査査でチェック対象となる表現として、次の文言があります。「犯罪や暴力、売春、反社会的勢力などを肯定、示唆、助長、美化し社会的秩序を乱すもの」と。「未成年者のナイトクラブ勤務」に見える表現は、この基準に照らして適切といえるのでしょうか。JR西日本コミュニケーションズの広告審査においては、十分なチェック機能が働いていないのではないでしょうか。
今後、御社の関連施設に掲示される広告には、「風営法違反に類した表現」が含まれないようにすることを求めます。
③「女性や未成年を性的対象化する表現」の問題
第三の問題点は、当該ポスター群に「女性を性的対象化する表現」、しかも「未成年を性的対象化する表現」が見られることです。先述の「未成年者のナイトクラブ勤務に見える表現」もそれにあたりますが、他にも以下のような表現があります。
このイラストでは、私のような男性オタクの間で「乳袋」と呼ばれる性的強調表現が使われています。女性の体の一部を、現実ではありえないレベルで誇張して、性的な対象物、または玩弄の対象として描く表現です。
こうした表現は、マンガやアニメやゲームなどのオタク文化においては頻繁に登場するものです。個人や同好者のグループが、自室または個室で楽しむ分には、あまり問題にはならないでしょう。しかし、そうした性的強調表現が、広告として公共の場に開陳されるとなれば、話は全く別です。それらを目にした人々から大きな批判が寄せられることは、現在では避けられません。以下、参考事例をいくつか紹介しておきます。
青柳美帆子. 「賛否両論、美濃加茂市『のうりん』美少女ポスター。炎上は避けられなかったのか」. exciteニュース. 2015.12.1.
https://www.excite.co.jp/news/article/E1448932351189/牟田和恵. 「『宇崎ちゃん』献血ポスターはなぜ問題か 『女性差別』から考える」. 現代ビジネス. 2019.11.02.
https://gendai.media/articles/-/68185「秋葉原にアダルトゲームの巨大広告 東京都が現地調査、千代田区は指導へ」. 弁護士ドットコムニュース. 2019.11.11.
https://www.bengo4.com/c_23/n_10366/
公共の場で「女性を性的対象化する表現」が晒されることに、女性が抗議の声を上げるのは当然のことです。1989年の「福岡セクハラ裁判」を契機として、職場におけるセクシャルハラスメントは重大な社会問題として認識されました。現在では信じられない話でしょうが、かつて企業の職場には、生命保険会社の販促グッズであるヌードカレンダーなどが卓上に置かれていたものです。酒類を扱う店などでも、水着やヌードの販促ポスターが堂々と貼りだされていました。しかし、1997年の男女雇用機会均等法改正、1999年の男女共同参画社会基本法などを経て、現在では「職場などで性的な表現物を見せる行為は、環境型セクハラである」という認識が一般化しています。
厚生労働省は、「女性労働者が抗議をしているにもかかわらず、事務所内にヌードポスターを掲示しているため、当該女性労働者が苦痛に感じて業務に専念できない」場合などを、環境型セクハラの具体例として挙げています。
労働省. 「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上配慮すべき事項についての指針」. 2019.3.13.
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/09/s0927-6d.html
このような社会の動きは、広告業界とも無縁ではありえません。職場では「環境型セクハラ」に類するような表現が、広告においては許される、そんなことはありえないからです。広告における「女性を性的対象化する表現」の問題については、すでに多数の分析や対策、提言などが、広告業界の内外で進められています。詳細は以下の各記事をご覧ください。
Design Studio Xemono. 「ジェンダー炎上回避チェックリスト」2020.4.1.
https://note.com/xemono/n/ne8f3e1c2fdfe治部れんげ.「『ジェンダー炎上』が注目された2020年。『失敗する企業』に足りないものとは」. 現代ビジネス. 2020.12.31.
https://gendai.media/articles/-/78911道喜道恵. 「『ジェンダー炎上』ってご存じですか?」. 株式会社あやとり.2021.1.22.
https://ayatori.co.jp/column/digital-shift/developing-customers/20210122112412/瀬地山角. 「炎上CMを4パターンに分類 ジェンダー論は広告づくりの必修科目」. 宣伝会議, 2021.7.
https://www.advertimes.com/20210531/article352389/UN Women日本事務所. 「UN Women (国連女性機関) によるアンステレオタイプアライアンス日本支部設立」 .2022.5.19.
https://japan.unwomen.org/ja/news-and-events/news/2020/5/press-release-ua-japan-chapter金春喜「国連女性機関が『月曜日のたわわ』全面広告に抗議。『外の世界からの目を意識して』と日本事務所長」. ハフポスト. 2022.4.15.
https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_6257a5d0e4b0e97a351aa6f7
さらに近年は、私のようなオタク男性からも、「公共の場で性的強調表現を開陳するのは問題ではないか」という意見が出てくるようになりました。「マナーに反するから」「性的な表現物を持ち歩くのは恥ずかしいから」「女性の人権や尊厳を傷つけるから」「子どもに性的表現物を見せるのはかわいそうだから」等々、人によって理由はさまざまですが、いずれにせよ、人権に配慮したゾーニング(望まない人に性的表現などを見せないように、空間や間仕切りを用いて行う自主規制)の必要性が認識されつつあります。
「『コミケのエッチな紙袋で帰宅するのやめて!』地元民の悲痛なツイート」. オタコム. 2012.8.10.
http://0taku.livedoor.biz/archives/4265695.html「コミケの『紙袋持ち帰りのマナー問題』を解決する! 透けない防護カバー『紳士袋』を配布・頒布予定の共信印刷に話を聞いてみました」. ねとらぼ. 2016.7.19.
https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1607/19/news134.html「【完全にアウト】秋葉原のオタクショップ『まんだらけ』、小学校の通学路なのに幼女の全裸ポスターを堂々と表に展示! さすがに一線超え過ぎと批判殺到」. はちま起稿. 2018.10.17.
http://blog.esuteru.com/archivehttp://blog.esuteru.com/archives/9206952.html「日赤『宇崎ちゃん』献血PRポスターは"過度に性的”か 騒動に火をつけた米国人男性に聞いてみた」. 文春オンライン. 2019.10.20.
https://bunshun.jp/articles/-/14871赤木智弘. 「まんだらけ擁護の声が招いた?サブカルの聖地で起きたバッドエンド」. BLOGOS. 2022.3.31.
https://news.livedoor.com/article/detail/22258257/
問題は、広告に対する社会の意識が変化したのに、広告業界の一部の皆さんの意識が十分に変化していないことです。特にJR西日本コミュニケーションズの皆さんに申し上げたいのですが、「オタク男性は、公共の場でバニーガール姿の未成年のイラストポスターを見て喜ぶものだ」と、本気で信じていらっしゃるのですか? もしそうなら、それは先入観であり、ありていに言えば間違いです。
人間のセクシャリティ(性についてのありかた全般。欲求、行動、人間関係などを含む)というのは、個々人によって大きく異なるものです。「これくらいなら大丈夫でしょ?」「あなたもこういうのが好きでしょう?」などという思い込みをもって、性的な要素を含む表現物を他人に見せつける行為は、たとえ同性間であっても大きなストレスを引き起こすことがあります。
具体例として、私自身の経験をお話ししましょう。1980年代頃までは、マンガやアニメといったコンテンツにおいて、「スカートめくり」「風呂のぞき」「更衣室のぞき」といった行為が、あたかも「ちょっとしたイタズラ」「冗談の一種」といった扱いで描写されていました。そうしたものを目にした時、子ども時代の私はいつも居心地の悪い思いをしたものです。「明らかに女の人が嫌なことをされているのに、なぜ『面白い出来事』みたいに描かれているのか?」というのが疑問でした。
また、昔は日常生活でヌードのポスター類を見る機会がよくありました。小学校のクラスメイトの家に遊びに行くと、彼の父親が居間に貼ったヌードカレンダーを目にしました。大学に行けば、寮やクラブハウスなどの共用施設にはヌードや水着のピンナップが貼られていました。こうした出来事は、「あまり楽しくない思い出」として記憶に残っています。
なぜ私は、他人に性的表現を見せられて居心地の悪さを感じたのか。それは要するに、「私のセクシャリティが尊重されていなかったから」です。「性的な表現を見たいか、見たくないか」「性的な表現を見たいとしても、いつ、どのようにして見たいのか」「その性的表現を他人と共有したいかどうか」は、当たり前ですが人によって、また状況によっても異なります。個人のセクシャリティを尊重せず、性的表現を同意なく他人に見せる行為は、明らかに問題があるコミュニケーションです。
さて、大阪駅の構内で件のポスター群を見た時も、私が感じたのは懸念と不安でした。「自分のような男性オタクは、こういうものを見て喜ぶ人間だと思われているのだろうか?」「これを見る女性や未成年の中には、尊厳をふみにじられていると感じる人もいるのではないだろうか?」「こういう広告が多くなると、若い世代にジェンダーバイアスを植え付けることにならないか?『大人は未成年を性的対象にしてもいいのだ』と、刷り込むことにはならないか?」「このポスターを批判した女性が、非常識な一部のオタクに攻撃されないか?」といったことです。
私のようなオタクが楽しんでいるマンガやアニメやゲームの中には、性的、暴力的、反社会的な内容も一部に含まれています。自室や同好者の集まりで、外部に見えないように楽しむならまだしも、公的な場で同意もなく晒すべきではない、そういうコンテンツがあるのです。
具体的に説明しましょう。御社の当該ポスター群では、アニメ『咲-Saki- 全国編』のキャラクターが描かれています。このアニメ作品は、オタクである私から見れば、そこまで性的強調の強い内容とは感じません。ただし客観的に見るならば、「未成年を性的対象化する表現」が含まれているのは事実です。女性や未成年がこのアニメを見れば、強い嫌悪感を感じる可能性はあります。
『咲-Saki- 全国編』公式ホームページ. 登場人物紹介. 薄墨初美.
http://www.saki-anime.com/character/?school=eisui#3『咲-Saki- 全国編』公式ホームページ. 登場人物紹介. 石戸霞.
http://www.saki-anime.com/character/?school=eisui#4
また、このアニメの原作マンガ『咲-Saki-』について言えば、間違いなく「未成年の性的対象化」が激しい作品です。この作品は連載開始当初、「女子高生が部活で麻雀をするマンガ」でした。しかし現在では、作品の傾向が大きく変化してしまっています。現在、連載されている内容をありのままお伝えしますと、「下着を身に着けていない未成年女子が麻雀をするマンガ」となっています。私が何を言っているか、ご理解いただけないとは思いますが、私もこのマンガについては訳がわかりません。
「【悲報】咲の作者、越えてはいけないラインを越える」. まとメメちゃん. 2019.04.18.
http://namekkutake.livedoor.blog/archives/16539754.html「【疑問】あれだけ人気だった『咲-Saki-』はどこからおかしくなってしまったのか」. やらおん!. 2022.09.13.
http://yaraon-blog.com/archives/224158
こうしたアニメやマンガのキャラクターを、「バニーガールスーツ」「乳袋」などの性的な記号・表現とともに駅広告に採用すれば、批判的な反響が返ってくることは予想の範囲内です。オタクである私でも、そのような批判意見には正当性があると思いますし、尊重して傾聴すべきだと考えます。
もちろん「私はあのポスターを性的だと思わない」と言う人もいるでしょうが、それは苦痛を感じる女性の声を無視してよい理由には全くなりません。特に性的な問題に関しては、「多数意見」であるからといって、それが正当であるとは限らないのです。その実例はのちほど触れましょう。
念のために申し上げておきますが、私は御社が掲示した当該ポスター群について、全てを批判しているわけではありません。オタク男性である私が見る限りですが、「未成年の性的対象化には当たらないと思われるイラスト」も、いくつか存在したからです。たとえば、以下のようなものがそうです。
JR西日本コミュニケーションズの皆さん。駅に貼っても問題があまり生じないのは、こういったイラストです。(ただし、「未成年女性をアイキャッチに使っているのではないか」という批判はありえます。)
もうひとつ、重要な論点があります。御社はこれまで、近畿6府県の警察や私鉄各社と協力し、痴漢防止キャンペーンに取り組んで来られました。その努力には敬意と感謝を表したいと思います。痴漢は言うまでもなく卑劣な性暴力であり、被害者に一生残る精神的な傷を残します。また、痴漢の加害者は往々にして未成年や若年層を集中的に狙います。「#WeToo Japan」の2019年の調査によれば、「痴漢被害が最も多いのは10代」、ついで「20代」です。
伊吹早織. 「女性の7割が電車や道路でハラスメントを経験。『実態調査』でわかったこと」. BszzFeedNews. 2019.1.21.
https://www.buzzfeed.com/jp/saoriibuki/wetoo-zerohara-chosa
このような状況下で、御社が「未成年の性的対象化表現を含む広告」を駅構内に掲示するのであれば、それは社会に対しても、また御社の社内に対しても、誤ったメッセージを送ることになってはいませんか?
「元JR社員、強姦認める 女子中高生8人被害」. 産経新聞. 2015.2.25.
https://web.archive.org/web/20150225130447/https://www.sankei.com/west/news/150225/wst1502250058-n1.html「JR西日本の車掌がJR車内で女性にわいせつ行為」. ABCテレビ. 2019.7.24.
https://web.archive.org/web/20190724163100/https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190724-00022629-asahibc-l28「JR西日本社員 列車内で10代女性の隣に座り体触った疑いで逮捕」. MRO北陸放送. 2022.11.10.
https://news.yahoo.co.jp/articles/7c8bee836f743fffb46e83003460af0cff18b8d2
『2022年度JR西日本交通広告メディアガイド 2022年度JR西日本交通広告データブック』は、「性に関する表現が、露骨でわいせつなもの、品位を損なうもの、不快感や羞恥嫌悪の念を感じさせるもの」を、広告審査のチェック項目に挙げています。この広告審査基準の文言も、またその解釈や運用も、時代の変化に合わせてアップデートされるべきではないかと思います。「R18指定ではないから問題ない」「ヌードではないから問題ない」「ロゴで局部を隠してあるから問題ない」などという、旧態依然の判断基準は再検討されるべきです。
御社の「JR西日本グループ人権基本方針」には、次のような文言があります。
(1) 多様な人権の尊重
JR西日本グループは、人権に関する国際規範等を踏まえ、お客様、地域の方々、取引先の方々、社員をはじめとするすべての人々の人権を尊重し、多様な価値観を活かした事業活動を行います。
(2) 差別の禁止
JR西日本グループは、人種、国籍、宗教、性別、性的指向、性自認、障がいの有無、社会的身分等を理由とした差別を行わないこと、また、差別に加担しないことを遵守します。
(3) ハラスメントの禁止
JR西日本グループは、性的又は妊娠・出産・育児・介護に関するハラスメント及びパワーハラスメント等、人権を傷つける言動や行為を行いません。「JR西日本グループ人権基本方針」. 2019. 4.1.
https://www.westjr.co.jp/company/action/humanrights/pdf/humanrights.pdf
これら御社の内部基準をふまえて、企業コンプライアンスの観点から、今後は御社の関連施設に掲示される広告に「女性や未成年を性的対象化する表現」を含めないことを求めます。
※今日はここまで。このあと④~⑤までの意見書の本文が追加されていきます。