ソマリアの海賊対策が軍事力で行われてほしい人々には耳の痛い話
(@∀@)・・・ニューズウィーク(2009.4.29.)で、ソマリアの海賊への軍隊出動をどう見るか、という記事「海賊の血が流れた日(原題Blood in the Water)」を読んだ。以下はその要約。
▼4月12日、ソマリア沖でアメリカの貨物船マークス・アラバマ号を襲った海賊が、オバマ大統領の命を受けたSEALsに3人射殺された。米海軍当局は救出作戦による抑止効果を強調するが、海運・保険業界では、「アメリカの強硬策が海賊の攻撃性を高めて、ソマリア海域の商船の危険が高まるのではないか」との声が出ている。
12日の事件のあとで、アメリカ船籍の貨物船リバティー・サン号がロケット弾と自動小銃で攻撃された(被弾はしたが貨物船は逃げ延びた)。オマル・ダヒール・イドル(ある海賊グループのリーダー)はAP通信の電話取材で「われわれが自分の海を敵から守るのをやめさせることは誰にも出来ない。われわれは命をなげうつ覚悟ができている」と述べた。リバティー・サン号を襲った25歳の別の海賊は「アメリカ人を探してとらえて殺す」と言う。
▼ハンナ・ケップの見解
(リスクコンサルティング会社「コントロール・リスクス」西アフリカ担当アナリスト。)
・ソマリアでは人命は軽い。海賊を一人殺せば別の一人がその穴を埋める。100人殺せばその何倍もの海賊が現れる。かといって射殺し続ければ人々の反発が強まる。
・最近まで海賊が船員に暴力をふるうケースはきわめてまれだった。この1〜2年でソマリアで海賊が人質をとり身代金を要求する事件が増えているのは事実。しかしほとんどの場合、船員と船荷は無傷で解放されている。しかし海賊対策で武力行使するようになれば、事態の重大性は高まる。
▼国際海事局(IMB。海賊に関する情報を収集している)の警告
・軍事介入は海賊の凶暴化を招きかねない。
▼コントロール・リスクスの推計では、洋上で活動するプロの海賊は300人ほど。地上でサポートする人間は同じくらいいる。
▼米政府関係者も認めるように、問題の海域はあまりに広く、通行する船舶の数はあまりに多い。かなりの数の海軍力を展開しても海賊の根絶は難しい。ある試算では海賊取締りの第一歩でも60隻の艦艇が必要だが、現在派遣されている艦艇は20隻に満たない。
▼ケップ「ソマリアが国家として崩壊していることが問題の本質である以上、軍事的措置だけで問題を解決することは不可能」
▼海運業者はソマリアの政治的・経済的状況を改善することが唯一の解決方法だと考えているが、具体的な方法はいまだに示されていない。
・・・この記事にはまだほかにも興味深い記事がある。元米海軍中佐で陸軍大学校の教官ジョン・パッチのインタビューでは、パッチが次のように述べている。「軍事作戦でなく法的な取り締まり行為で緊急対処すべき。取り締まり活動は『ゴミさらい』みたいなもので、海軍には他にやることがあるだろう。海軍は海賊逮捕のための訓練を受けていない」「緊急対策としては、むしろ法の執行権があり海賊逮捕の訓練も受けている沿岸警備隊を送るのがベスト。国連主導の警備隊を作るのもよいだろう。カネがかかりすぎるなら、いっそ海賊を放置するという選択肢もある。海賊による世界経済への被害なんて最小限だし、アメリカの存亡にかかわる問題ではない。海賊の脅威は誇張されすぎ」
また、クリストファー・ディッキー(ニューズウィークの中東総局長)はフランス海軍が強硬策で海賊を逮捕していることについて、次のように書いている。「海運業者は、複数の国が協力してもソマリア沖の危険な海域すべてをパトロールすることは不可能だと知っている。」「海賊はヨーロッパに情報網を持ち、どの船をいつどこで襲うかを綿密に計画している。」「船主や海上保険業者は積荷や乗組員に保険をかけ、いざとなれば身代金を払った方が、海賊と戦ったり軍艦に助けを求めるより安全で安上がりだと考えており、海賊は事業コストの一部とみなされている。」「国家の威信をかけて海賊に武力行使しても、仲間の復讐に燃えるソマリア人を、『洋上の強盗』から『海のゲリラ戦士』に変えるおそれがある」「4月4日にフランス人所有のヨットがのっとられ、サルコジはフランス海軍を送り込んだが、人質が1人死亡した。今後の事件は、結末がハッピーエンドになるとは限らない。」
以上は要約。興味のある人は記事を一読してみてください。
とある春の日曜日に死んだJ・G・バラード
▼映画「太陽の帝国」原作者、J・G・バラード氏が死去
http://www.yomiuri.co.jp/national/culture/news/20090420-OYT1T00512.htm
>J・G・バラード氏(英SF作家)=英BBCテレビなどによると19日、死去。78歳。
>代表作に「沈んだ世界」「結晶世界」、短編集「戦争熱」など。第2次世界大戦当時、上海を占領した日本軍の捕虜収容所に収容され、その体験をもとに「太陽の帝国」を発表。同作品は、スピルバーグ監督により映画化された。
[rakuten:book:11601886:detail]
・・・読売新聞がバラードの死に際して報じた記事は、わずかにこれだけ。
朝日新聞も
http://www.asahi.com/obituaries/update/0420/TKY200904200043.html
CNNも同様。
http://www.asahi.com/obituaries/update/0420/TKY200904200043.html
(@∀@)しょうがねえなあ、と思う。まあ後にでも特集なり追悼記事なりが載るとはおもうけれど。
▼J・G・バラード@wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/J%E3%83%BBG%E3%83%BB%E3%83%90%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%83%89
英米のバラードのファンサイトは黒いページなどで弔意を表明。すでにいくつかの弔辞も寄せられている。
http://www.ballardian.com/
http://www.jgballard.com/
・・・バラードの小説を初めて読んだのは学生時代。中央線の駅に近い古本屋で、"The Wind from Nowhere"(1962年、邦訳『狂風世界』)を買った。
この小説では人類社会は「風」によって滅亡へと追い込まれる。ひたすらに速度をあげてゆく「風」によって荒廃していくロンドン、そして世界。ある大富豪は人類最後の砦としてピラミッド型の要塞を建設する(ネルフ本部みたいなのw)が、荒れ狂う嵐には為すすべがない。そんな破滅的な災厄の真っ只中でも、夫婦の不和だのなんだのといった、本当にどうしょうもない個人的な感情にふりまわされ続ける人間たちが描かれてゆく。作者の視線は、まるで巣の中のアリを観察する人のようだ。
この視線はバラードの作品に一貫している。"The Crystal World"(1966年、邦訳『結晶世界』)では、ある宇宙規模の変動により、地球上のすべてが「結晶」に包まれてゆく。本当にどえらいことが全世界および目の前で起きているのだが、にもかかわらず登場人物はほとんど個人的な人間関係に悩み続けるばかりだ。その「度し難さ」が奇妙な感慨を生み出していたものだった。余談ながら『帰ってきたウルトラマン』に登場する光怪獣「プリズ魔」は、たぶんこの小説が元ネタだろう。
これら「崩壊する世界と、度し難い個々人」の着想がどこから来たかは、自伝的小説『太陽の帝国』で明らかになる。上海で生まれて日中戦争に巻き込まれ、大日本帝国により収容所生活を余儀なくされた生い立ちが語られる(ただし小説は一部フィクションを含んでいる)。生まれ育った街は崩壊し、大人たちは勝手にそれぞれの思惑で動くばかりで当てにならない・・・
映画『太陽の帝国』で、主人公の少年が見せる、透明な乾いた眼。あれだ。あれこそがバラードだ。R.I.P.